思考の論理的形式復習のページ
真理関数
ヒットラーはユダヤ人である ‥‥a
アインシュタインはユダヤ人である ‥‥b
aは手塚治虫の『アドルフに告ぐ』ではいざしらず、偽とみなすのが
常識である。それに対してbは真であろう。
ここで「aでない」という命題の真偽すなわち真理値を考えてみると、「aでない」は真である。aでないを¬a、真をT、偽を⊥と表記すると、
aは⊥だから¬aはTとなる。逆にbはTだから¬bは⊥となる。
一般に命題をpと表すと ¬pはpがTのとき ⊥
pが⊥のとき T となる。
これはちょうどx2はxが1のとき1
xが0のとき0のようにxの値に応じてx2の値が
一義的に対応するのと同様である。
¬pはpの真理値に一義的に対応した真理値をもつという意味で
一種の関数とみなすことができる。
否定¬pのような関数のことを原子命題pの真理関数と呼ぶ。
基本的な真理関数には
¬p (pでない)、p∧q (pかつq)、p∨q (pまたはq)、p→q
(pならばq)、の四つがあり、これに(p→q)∧(q→p)で定義されるp⇔q
(pならばpの時に限りq)を合せて数えることがある。
複雑な真理関数でも以上の5つの基本的な真理関数を組み合わせて定義される。
一般には原子命題の真偽すなわち真理値x1、x2、‥‥xnから、原子命題によって構成される分子命題の真偽yへの関数のことを真理関数という。
真理表の書き方
¬、∧、∨、→、⇔の順で結合力が弱いと考える。
したがって((¬p)∨q)→(p∧q)は¬p∨q→p∧qと同じである。
括弧のなかから真理値を決定して行く。
¬p∨q→p∧qの場合では以下の通り。
p | q | ¬p | ¬p∨q | p∧q | ¬p∨q→p∧q |
T | T | ⊥ | T | T | T |
T | ⊥ | ⊥ | ⊥ | ⊥ | T |
⊥ | T | T | T | ⊥ | ⊥ |
⊥ | ⊥ | T | T | ⊥ | ⊥ |
¬p∨q→p∧q のように必ずしも常にTにならない式を整合式
¬p∨q→(p→q) のように必ずTになる式をトートロジー
(¬p∨q)∧(p∧¬q)のように必ず⊥になる式を矛盾式と呼ぶ。
p | q | ¬p | ¬p∨q | ¬q | p∧¬q | (¬p∨q)∧(p∧¬q) |
T | T | ⊥ | T | ⊥ | ⊥ | ⊥ |
T | ⊥ | ⊥ | ⊥ | T | T | ⊥ |
⊥ | T | T | T | ⊥ | ⊥ | ⊥ |
⊥ | ⊥ | T | T | T | ⊥ | ⊥ |
以下の式はトートロジーか整合式か矛盾式か?
p∧(p→q)→q トートロジー
q→p∧(p→q) 整合式
p | q | p→q | p∧(p→q) | q→p∧(p→q) |
T | T | T | T | T |
T | ⊥ | ⊥ | ⊥ | T |
⊥ | T | T | ⊥ | ⊥ |
⊥ | ⊥ | T | ⊥ | T |
¬q→¬(p∧(p→q)) トートロジー
(p→q)→(¬p∨q) トートロジー
¬(p→q)→¬(¬p∨q) トートロジー
(p→q)⇔(¬p∨q) トートロジー
¬(p∧(p→q))∨q トートロジー
(p∧(p→q))∧¬q 矛盾式
p | q | p∧(p→q) | ¬q | (p∧(p→q))∧¬q |
T | T | T | ⊥ | ⊥ |
T | ⊥ | ⊥ | T | ⊥ |
⊥ | T | ⊥ | ⊥ | ⊥ |
⊥ | ⊥ | ⊥ | T | ⊥ |
命題の論理記号による表現
1.雨が降ったときに限り虹が出る。
r1:雨が降った。 r2:虹が出る。 r2→r1、または¬ r1→¬r2
2.ジョンがいるときだけメアリーはピアノを弾く。
j:ジョンがいる。 m:メアリーはピアノを弾く。 m→j、または
¬j→¬m
3.このやかんは取っ手が取れたときに保証するか、一年間保証する。
p:このやかんの取っ手が取れた。
q:このやかんの使用期間は一年間以内である。
r:このやかんを保証する。
(p→r)∨(q→r)、または¬p∨¬q∨r、¬(p∧q)∨r、p∧q→r
4.ヒットラーもルーズベルトもユダヤ人でない。
h:ヒットラーはユダヤ人である。
r:ルーズベルトはユダヤ人である。
¬h∧¬r、または¬(h∨r)
5.ヒットラーがユダヤ人でないかまたはアインシュタインがユダヤ人でない。
h:ヒットラーはユダヤ人である。
e:アインシュタインはユダヤ人である。
¬h∨¬e、または¬(h∧e)
6.ア・プリオリな認識が純粋理性に基づき、ア・プリオリでない認識が経験的判断であるとき、純粋理性に基づかない認識は経験的判断である。
a:認識がア・プリオリである。 r:認識が純粋理性に基づく
e:認職が経験的判断である。
(a→r)∧(¬a→e)→(¬r→e)
7.男やもめは男でありかつ独身ならば、男やもめは男である。
s:ある人は男やもめである。
t:ある人は男である。 u:ある人は独身である。
(s→t∧u)→(s→t)
ちなみにこのとき (s→t∧u)→(s→u)もなりたつ。
8.男やもめか未亡人が独身ならば、男やもめは独身である。
a:ある人は男やもめである。
b:ある人は未亡人である。 c:ある人は独身である。
(a∨b→c)→(a→c)
ちなみにこのとき(a∨b→c)→(b→c)もなりたつ。
否定・条件・推論
「すべての学生は勤勉である」という主張に対して厳密な否定は、全称文を存在文に変えた文、すなわち
「ある学生は勤勉ではない」である。
「すべての学生は勤勉である」という主張に対して
「学生はすべて勤勉ではない」
「勤勉な学生も勤勉でない学生もいる」は厳密でない否定である。
他方、「すべての学生は勤勉である」という主張は、以下の三つと両立可能である。ただし同値でない。
「ある学生は勤勉である」
もとの逆「勤勉なものは学生である」
もとの裏「学生でなければ勤勉でない」
上のように全称肯定文は条件関係が成り立ち、その対偶と同値である。
「すべての学生は勤勉である」は「勤勉でないものは学生でない」のと同じである。
対偶を使った推論の問題を解いてみよう。
@休日には久美子は英会話学校に行く。
A休日でない日には一人は講義に出たうえで、さらに英会話学校に行く。
B久美子が英会話学校に行く日はバスと電車が空いている。
Aの対偶より
C一人が講義に出ないか英会話学校に行かない日は休日である。
Cより
D一人が講義に出ない日は休日である。
@・Dより
E一人が講義に出ない日は久美子は英会話学校に行く。
B・Eより
F一人が講義に出ない日は電車が空いている。
(全称と存在の推論)
条件構造をもたない存在文がある場合、その個体をα、β、γ…等各々名前を付ける。
@殺人を好む者は倫理的でない。
Aある倫理学者は殺人を好む。
Aより殺人を好む倫理学者をαとする。
Bαは殺人を好む。
@・Bより
Cαは倫理的でない。
Cから以下が推論される。
D倫理学者の中には倫理的でないものがいる。
(消去法)
いまAでなく、さらにAまたはBであるとしよう。とするとBであることが推論できる。
@おもしろくてためになる授業なら、向学心がおこる。
A向学心のおこる授業なら、大学に通いたくなる。
Bおもしろいが、大学に通いたくない授業ならためにならない。
@・AからBを導きたいとき、BA→BのAを仮定しBを導く。
すなわちCA、ある授業がおもしろいが、大学に通いたくないを仮定する。
Aの対偶より
D大学に通いたくない授業は、向学心がおこらない。
C・Dより
Eある授業がおもしろいが、向学心がおこらない。
@の対偶より
F向学心のおこらない授業は、おもしろくないかためにならない。
E・Fより
Gその授業がためにならない。
C・GよりBが導かれた。
では応用問題をやって見よう。
@算数も理科も好きな児童は社会が好きではなかった。
A国語が好きな児童だけが理科が好きでなかった。
B国語が好きではないが社会が好きな児童がいた。
それゆえ C国語も算数も好きではないという児童がいた。
この推論が正しいことを示そう。
Bは存在文なので、
D国語が好きではないが社会が好きな児童をβとおく。
@の対偶より
E社会が好きな児童は算数か理科が好きではなかった。
DEより
Fβは算数か理科が好きではなかった。
Aより
G理科が好きでなかった児童は国語が好きだった。
F・Gより
Hβは算数が好きでなかったか国語が好きだった。
Dより
Iβは国語が好きではなかった。
H・Iより(消去法)
Jβは算数が好きではなかった。
I・Jより
Kβは国語も算数も好きではなかった。
したがって@・A・BよりCが推論された。
(背理法)
A,B,Cの三軒の米屋があり開店状況は次のようである。
このときA店は毎日閉店していることを背理法によって証明するには、結論を否定して矛盾が生じることを示せばよい。
@他の二店がともに閉店の日はA店は閉まっている。
AA店が開店かB店が閉店の日はC店は閉まっている。
B他の二店のどちらかが開店の日はB店は閉まっている。
さてA店は毎日閉店していることを否定して仮定する。すなわち
CA店は毎日閉店しているとは限らない。
Cより
DA店の開店している日をγとする。
@の対偶より
EA店が閉まっていない日は他の二店のいずれかが閉店していない。
Eを言い換えると
FA店が開店している日はB店かまたはC店が開店している。
Aより
GA店が開店している日はC店は閉まっている。
F・Gより
HA店が開店している日はB店が開店しC店が閉まっている。
D・Hより
IγはA店とB店が開店しC店が閉まっている。
Jγは他の二店のどちらかが開店しB店が開店している。
BとJは矛盾。よって仮定が誤り。
「A店は毎日閉店している」が証明された。
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